終わりは始まり。

この一年、いや正確に言えば約六年間、色んな事があった。その様々な出来事の概要を書き残そうと思う。本当は、今の感情を何らかの作品として昇華できるのがベストなんだろうけど、今の俺にはその力が足りない。だから、これから書く事はあくまでもメモ。ノンフィクションな只のメモ。


七年前、純度100%のメンヘルな女の子と知り合い、そのあまりにも無防備で剥き出しな感情の姿に惹かれ、病気なのだからそのうち治るだろうと、本当に気軽な気持ちで付き合うことになった。彼女が抱えていた問題は、とても複雑で根が深く出口が見えないものだったんだけれど、何とか助けてあげたいと俺の持てる時間と能力のすべてを全力で注いだ。


三度の自殺未遂と三度の浮気を眼の前に突きつけられたりもしたけれど、それでも、信じる事を諦めずに暮らしていた。日々、暴力と罵声を浴びせられ続けながら、この状況は俺の力が足りないせいだと、本気で考えていた。それは、何も出来ない無力な自分を、圧倒的に自覚するだけの毎日でもあった。


最終的に、自分自身が壊れてゆくのにすら、気がつく事が出来なくなっていた。もう限界だ、何度もそう思い、そして何度も思い直し、その度に自分が分からなくなっていった。この娘を助けたいのか?それとも、この状況から逃げたしたいだけなのか?彼女の病気の回復の果てにあるものが何なのかさえ、分からなくなっていた。


その頃は、会社へ行き忙しく仕事をしている時だけが、今を忘れられる時間だった。だから仕事ばっかりしてた。会社のヒトには、モチベーションの高い仕事人間に見えていたのかもしれないけれど、俺はただ、何も考えたくなかっただけだ。現実から逃れたかっただけだった。けれど、そんな生活は長くは続かない。一年半で破綻していた。それは、今だからこそ分かる事だけれど…


破綻している事にすら気がつけないまま、こんな暮らしはもう続けられないということだけを毎日考えていた。どうしたら此処から逃れる事ができるのだろうかと、そればかりを考えていた。問題そのものから眼を逸らし、逃げ出す事ばかりを考えていた。もはや自分が何を望んでいるのか?というような疑問すら、俺の頭に浮かぶ事はなくなっていた。


けれど彼女を見捨てるという選択が、どうしても出来なかった。ここで俺が見捨てたら、彼女は居場所を失い、自ら命を絶ってしまうのがリアルに想像できたから。自分の選択がヒトの命を左右するという現実。自分の保身とヒトを助ける事を天秤にかける行為。それはとても傲慢で偽善的な考えでもあるんだけどね。


その頃から、たぶん俺はおかしくなっていたんだと思う。まず身体に変調が現れた。頭痛、微熱、吐き気、しかもそれは慢性的に。確かに昔から風邪をひきやすい自分ではあったけれど、明らかに何かがおかしかった。唯一の逃避の手段である会社へ行く事ですら苦痛になっていた。会社に迷惑をかけてしまう機会が増え始め、さすがにこれはマズいだろうと俺自身、自ら病院へ行く事にした。


けれど、どの医者もみんな同じだった。薬の処方と休みなさいという言葉。そこには、何の答えも解決策もなかった。まあ、当たり前だよね。医者は病気を治す事だけが仕事であり、俺が抱えている問題と状況を変える事は出来ないんだから。けれど、途方に暮れそうになったのは事実。休めと言うけれど、何処でどうやって休めば良いの?休めという事は、彼女を見捨てろということと同じ意味だろう?


結局、問題解決の可能性すら見いだせないまま、俺は病院へ行く事をヤメた。その時に処方された薬も飲む事はなかった。向精神薬睡眠薬を飲み続けたヒトが、どうなるのかを近くで見ていたから。いや、誤解のないように説明するけど、薬自体は悪くない。ほとんどのヒトの場合、ちゃんと回復に向かうと思う。


ただ彼女の場合、自分の言った事、やってしまった事、それらの記憶が翌日にはほとんど飛んでしまう状態だった。薬の強さや体質に因る部分が大きかったのだろうけど、どう考えてもマトモじゃないと思えた。忘れてしまうから、反省も出来ず、また同じ事を繰り返す。彼女自身も、それについては本当に悩んでいたようだけれど…完全なる悪循環。それら負のサイクルから逃れるすべを探すのを、俺はもう諦めようとしていた。


続く。