バタフライ

前回の続きを書こうかと思ってたんだけど、ちょっと書くのがツライので小休止。なので、先日の夜の出来事を。


久しぶりに少しだけまとまったお休みを会社からもらうことになったその日、フライング気味で退社したその足で羽田へと向かった。沖縄への高飛びを目論んでいた。しかし失敗した。プロ野球のキャンプシーズンだという事を完全に忘れていた。


思いつきだけの行動は空回りしやすい。そのことは経験上良く分かっていたはずなのに、この有り様。何ヶ月かぶりの休みらしい休みだというのに、スタートから不吉過ぎる。そんな事を考えつつも、仕方がないから朝まで呑んだくれることに決める。元々は全てを忘れてリラックスする事が、このお休みの目的なわけだから、これはこれで結果オーライだ。


土地勘のある街まで戻り、初見のダーツバーに入ってみる。ダーツマシンが2台、テーブル席が3つ、それから8人がけのカウンターバー。客層は仕事帰りのサラリーマンがメイン。ハシャギ過ぎる客はいない感じの落ち着いた雰囲気の店内。良かった。これならウンザリしたりせずに、ひとりで気兼ねなく呑める。


カウンター席の左から3番目、齢28歳(推定)の女子バーテンダー正面に陣取る事にする。当座の暇つぶし相手を確保。ちなみにダーツが好きなわけじゃない。ただダーツバーという空間は、ひとりで酒を呑むのに程よく適している。それだけがチョイスの理由。


シャープな顎のラインとロングな黒髪が特徴的な女子バーテンダーと、他愛のない世間話をしながら注文完了。泡盛とピザと豆腐のサラダ。何処のクニやねんというような組み合わせだけれど、まあしゃーない。泡盛があっただけでも良しとしなければ。そうそう、この女子バーテンダー、将来自分のお店を持つ事が目標だそうだ。夢、とは言わず、目標と表現したあたりに、この娘のインテリジェンスを感じて高感度アップ。少しの間、和食談義に華が咲く。


「こんばんは」


女子バーテンダーが忙しくオシゴトに戻っていった頃、不意に左サイドから声をかけられる。女の声だ、しかも中村あゆみ系のハスキーボイスだ。この状況は大抵2パターンに分類される。純粋に逆ナンをされているか、もしくは別のヤヴァイお店の女の子がキャッチしにきているか。俺の場合はもちろん、後者のことである確立が90%を超えているが…


不思議なことに、繁華街では盛りに盛ったキャバ嬢やら怪しげなマッサージ嬢とかに、良くキャッチされそうになる。何でだろう?そんなオーラが出ているのか、俺は。ってどんなオーラ?誰か教えてください。


「こんばんは」
「俺?」
「そう、こんばんは」
「うん、こんばんは」


少しだけ間の抜けた挨拶を交わす。身長157センチ、体重50キロ、E65のボディスペック。いや、当てずっぽうだけど俺の女子スペックチェッカーの精度はかなり高いから、誤差はほとんどないハズ。生活上は何の役にも立たないけれど、俺の数少ない特技でもある。


「で、何だろ?」
「隣、座ってもいい?」


いきなりタメグチ。しかも俺の返事を待たずに着席完了。茶髪の巻き髪ロングヘア、濃ゆいアイメイク、うっすらチーク、けど色は白い。何となく疲れた肌をしているけど25歳前後だろう。いかにもな雰囲気をまとったギャルな女の子だ。と、ちょっと待て。それは反則だ。その服、胸元が開き過ぎでしょ?左の胸に彫られたバタフライ・タトゥーが丸見えじゃないか。外は雪混じりの天気だというのに、何故?ふぅ、ほぼキャッチ決定だな。あとはどうあしらってご退席願うか、たぶん俺は今試されている。


「えっと、キャッチかな?」
「??」
「俺はひとりで呑むのが好きだから、女の子が居るお店には行かないよ?」
「えー、そんな風に見える?」
「失礼かもしれないけど、見える」
「ありえなーい、ちょっと失礼過ぎるってー(笑)」


とここでファーストコンタクト。距離感を間違えてる気がする。もう完全にキャッチだろう。もしくは仕事帰りの暇なキャバ嬢か?何にせよ、俺は騙されん。泡盛のオカワリを注文しつつ、臨戦態勢を整えた。




ゴメン、疲れたからこの話も続くってことで…